おい、バナナ寄越せ。人間。 その2

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第二話

猿山にも秩序と平穏が訪れ、俺はこの牧歌的な檻に満足している。はずだった。


 一体どこに勝算を感じ取ったのか、寛ぐ俺にまとわりつくようになって来たメス。自分の立場を保つために、服従的挨拶でNo.2の座に落ち着きたい元ボスザル。


 ボスが不在であるために、餌やりの時間の無秩序によって、我が子のためにと餌にありつこうとした親ザルが怪我をした。……いや、ボスザルテメェの仕事だろうが、何サル達の統率サボってんだよ。


 そんな感じで、望まない形でのボス就任が秘密裏に進められ、いつしかコミュニティー全体の要となる存在であると認めザルをえなかった。


 …………。


 ふっざけんじゃねぇ!! 誰がいつボスになりたいなんて態度とったんだ!! 大体、ただただあのブライド異様に高いサルの自滅特攻じゃん。俺は面倒事きらいなのぉ!! 


 ウッキョウッキャと怒りに任せて岩肌を叩く。その光景に怖気付いたのか、俺のすぐそばを離れようとしなかったメスザルも元ボスザルも、蜘蛛の子を散らすようにその場を去った。


 たく、俺様はもと人間。バカな奴らは気がついていないが、俺は人間なんだ。こんな動物園の猿山コーナーで管理職やっている器じゃねんだよ。


 しかし、いくら足掻いたところで人間からの評価はサル止まり。どんなに人間に近い知能を披露しても、せいぜいが白衣を来た博士かなんかが遠巻きに観察するだけ。


 アニメが見たい。内容は理解できる。文字だって知っている。ペンと紙を渡されれば、人間との意思疎通も難しい話じゃない。俺は俺がサルではないと長年をかけて主張してきたが、実際はどこまで行ってもサル止まり。クソッいつまでも気がつかないボンクラ供め、いつかその知能の低さを晒してやるんだ。


 しかしどうやって人間に、自分が人間であることを証明するんだろうか。手取り早いのが、わかる人間に直接交渉すること。この世界が広いことを俺は知っている。井の中の蛙大海を知っている。現状で接触できる人間の全てには、どうにかこうにか交渉に持ち越せるようにあの手この手と尽くしたが、結果はどれも芳しくない。


 サルと認知された自分は、どこまでいってもサル止まり。いっときだけの一時的な感情しか作り出せない。もっと権力を持った人間に自分を売り込まないと、一生を退屈な猿山の中で過ごすことになるぞ。


 嫌だぁ、それは嫌だ、せっかく生まれ変わるチャンスをもらったのに。でもどうする? いや、もう既にどうすべきなのかはもう知っているんだ。ただ思考を一から整理して、それが本当に最善の行動なのかを何度も何度もシミュレートしているだけなのだから。


 この動物園に俺の未来はない。それは確か。強引な手だが、この小さな檻からの逃亡。この脱走に俺の人生……いやサル生の全てをかけるしかない。


 脱獄作戦だ。


 猿山の周囲は、高く壁が反り立っており、現実的に考えて半分も辿り着けないだろう。対して唯一の出口と目される職員用の出入り口は、脱走対策のために三重もの扉が連なり、こちらもしっかり対策を打たれているので厳しいだろう。


 八方塞がり。サルはおろか、生身の人間ですら脱出は難しい。俺は一生、動物園の見せ物パンダで人生を終えるのか? 人間の生まれ変わりの自覚と誇りを持っていたが、あまりにも立ち塞がる壁が強大すぎて、自由への逃走を拒む。


 はじめから馬鹿丸出しの意見だったんだよと、誰かに言われている気がして、腹立たしいが自分の無力さにうなだれた。いや……腐ってちゃダメだ。どうせ二度目の人生なんだ、徹底的に……足掻いてやる。


 この時はまだ、自分の行動が毛ほども間違っているだなんて思っていなかったのだ。そう、あの時までは……。


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